【塾長コラム】成績の見方と対応

塾長コラム

テストや成績をどう見るか

 テストや成績をどう見るかは、中学生本人にとっても親にとっても大変重要です。受けとめ方をまちがえると親子関係を悪化させ、健全な精神の発達を歪めたり、やる気を著しく低下させ、成績の長期的下降の原因になったりすることもあります。
 テストや成績を子供の成長のために生かすことができるようにしたいものです。そこで、テストや成績をどう見て、どう扱うかについて、説明することにします。

テストは何のためにあるか

 生徒と教師が、反省と改善をするために行うものです。
 教師にとっては、指導の計画・方法・技術・教材が適切であるかを点検する好機です。
 また、生徒にとっては、期間中の学習が良かったかどうか、理解・定着ができたかどうかを確認する好機です。結果が出たら、次に生かすということが、互いに最も大切なことです。

親はどう関わるか

 テストは、生徒と教師が次に生かすためにするものですから、親は、その字の通り「木」のそばに「立」って「見」ているしかありません。
 でも、「次に生かす」ということを、いくら見守ってもしない子や、点が悪くても気にしない子を見ると腹が立ちます。そこで、怒る、叱る、なげく、をくり返す人も少なくないようです。無理もありません。
 しかし、これが続くといつまでたっても子供はテスト結果を自分のものにできなくなります。あんなに血相を変えて怒るんだから、テストは親のものだと錯覚します。テスト結果が出ても自分の感情(くやしいなぁ、残念だなぁ、こんなんじゃいやだ)よりも、この点数だと親に何て言われるか、何て言い訳しようか、遊ぶ時間を減らされるかなぁという心配の方が大きな問題になります。
こうなると、テスト結果についての主役は子供本人ではなくなります。テスト結果が悪い時、最も大切なのは本人の感情です。くやしい・残念・いやだという自分自身の感情が「次に生かす」ための最大の原動力であることが望ましいのです。人の感情を気にして「やらなくちゃ」では、弱すぎて長続きしません。
 そこで、お勧めしたいのは、本人の感情を育てたり、引き出したりすることです。テスト結果が良ければ一緒に喜び、悪ければ一緒に残念に思う(子供より控えめに)、そして、慰める、励ます、元気を出させることに努めるようにすると、テストはいつか本人のものになります。叱るのはテスト結果ではなく、ふだんの生活のし方だけでいいのです。

実例

この方法は面談などでお勧めして、たくさんの成功例を見てきました。一つ紹介します。

入塾時の状況

 中2で入会したW君は、内申点が23、偏差値45で、通える公立高では、東郷に内申-4、偏差値-2という状況でした。頑張れば届く目標ですが、問題は本人の学習意思です。お母さんに言わせると、「ぐうたらで」「成績もひとごと」「自分では何も心配しない」「何を言っても上の空」「机に行かせても、ぼーっとしているだけ」「私の最もきらいなタイプの人間に育ててしまいました」ということでした。お母さんは愛情深い、やさしい、おだやかな人です。子供の悪い点を言いながらも、明るい笑顔です。W君に会って、授業してみると、素直で好感の持てる子でした。指導すると、成績よりずっと能力はありそうです。

お母さんへのアドバイス

 お母さんに、これから半年間、本人以上に勉強を心配しないこと、テスト結果で注意したり、叱ろうとしたりしないこと、通知表を見ても、次がんばってね、ぐらいしか言わないことを約束してもらいました。
 この約束をした人は、たくさんいますが、半数以上は守れませんでした。しばらくやって、子供が何も変わらないか、もっとひどくなるのを見て、「やっぱり、この子は言わなきゃダメ」と元にもどってしまいます。

半年後の状況

 半年経って、お母さんは、「約束を守ろうとして最初はとてもストレスがたまりましたが、今では慣れて、完全に守れるようになりました。でも、あの子は何一つ変化してませんが。」と、相変わらず笑顔です。 
 「ぐうたらで」「成績もひとごと」「自分では何も心配しない」「何を言っても上の空」 「机に行かせても、ぼーっとしているだけ」だったW君に、自分のことは自分で心配するようになってもらうため、お母さんには、本人以上に心配しないこと、結果を叱らないことをお願いして、お母さんは半年間頑張りました。 しかし、本人は何一つ変化していないとのことですが、お母さんと本人に聞いてみると、微妙な変化はあったのです。最初は、お母さんが勉強のことを言わなくなったのを見て、W君は、「どうせ気まぐれで言わないだけで、また、すぐいつものようにうるさく言うだろう。」と思っていたようですが、あんまり続くので、 「もう、お母さんはぼくのことあきらめたの?」と聞いたそうです。
 お母さんは、
「あきらめたらもっと楽かもしれないけど、そうじゃないから、とてもつらいのよ。でも、先生に言われた通り、〈あなたがするべき心配〉を肩代わりしたり、あなた以上に感情的になったりして勉強をやらせても、言われたことの何割かをいやいや実行するだけで、勉強の効果は上がらないし、何よりもあなたの意志力や判断力が育たないから、大学進学の時も就職の時も、自分のこととして自分で乗り越えることができなくなる。そのことの方が、目先のテストよりも大事だと思う。あなたはあなたで頑張るしかないから、私もそのじゃまをしないように頑張ろうと思っているのよ。」
 このあと、珍しく、W君は自分の部屋の整理を始めたそうです。

W君の学習への姿勢

 さて、教室でのW君。指導には素直ですが、長年のめんどくさがり・なまけぐせのため、学習の方法を指導しても省いたり、家庭学習を細かく指示しても実行できなかったりが続きました。
 W君とは、10回位個別面談をしましたが、一度も叱っていません。
 「君は能力を使わずにいただけで、まだまだ相当持っている。」
 「君は高校で大仕事して、大学受験はすごく活躍できるタイプだ。」
 「お母さんは君に任せるつもりだから、自分のエンジンで動けばいいんだよ。少しでも自分のエンジンで動くことがすばらしいことだよ。」
 そんなことをたくさん話して、効果の上がる学習法は最初は面倒だけど、実は短い時間で何倍もできるようになるから、結局、勉強は少なくてすむんだということを、教え、実習させたりしました。

入会して1年後

 入会して、もうすぐ1年になる頃(中3の2学期後半)、W君の教室での姿が変わってきました。家庭学習は全部やってくるし、感心するほど集中した学習ができるようになりました。
 その上、自分から、期末テストで、理科と社会を頑張りたいけど、どんな方法でやればいいですか?」と質問してきたのです。この時の期末の結果は、すごいというわけではありませんが、 中学1~3年で本人の中では、最もいい結果でした。高校入試まで、あと3ヶ月ちょっとです。

お母さんの対応によるW君の変化

 W君が入会して約1年。お母さんが対応のし方を変えた効果がはっきりと現れてきました。 勉強への取りくみがとても良くなったW君は、二学期の内申が29、1月の模試の偏差値が50に上がりました(入会時内申点は23、偏差値45)。お母さんと本人と私の3人で面談をして、第一志望を東郷でなく日進西に切りかえました。W君が授業に入って行った後、お母さんが、「1年前は、あの子を最もきらいなタイプだと思っていましたが、今は、私の一番好きなタイプの子です。何も言われなくても、自分で一生懸命勉強を頑張っていますし、受験についても前向きで、高校でやりたいことについてもよく話してくれます。それに、私のことも思いやってくれるんです。私は今、受験の結果なんてどちらでもいいとさえ思えるんです。」と、今まで以上の明るい笑顔で言われたのが、強く印象に残っています。
 その後、W君は日進西高に進学し、大学受験では東京理科大学薬学部に合格しました。(早稲田・慶応・上智と並んで首都圏の私学では一流と言われるところです)。
高校でものすごい伸びを示したことがわかります。
W君のケースは、テストに対する本人の感情を育て、引き出し、学習の主役を本人にすることで、意志力・判断力を伸ばし、受験や将来について主体性を持たせることができることの実例として紹介しました。

親の接し方の効果

 W君のお母さんが、中2までにしたことと同様の接し方を中3でもしていたら、W君があのような成長を見せることは無かったかもしれません。そう考えると、塾での学習方法だとか教師の指導のし方以上に、親子関係が大きな影響を与えたケースとも言えます。誰でもそううまくいくとは限らないーという反論があるかもしれませんが、その通りです。なかなかうまくいかないこともあります。しかし、親がテスト結果で中学3年間叱る、怒る、否定する、非難する、罵るをやり続けて、成績や実力が上がったケースは一度も見たことがありません。対応がうまくいくかどうかは、子供の意欲レベルにもよります。

『意欲レベル』

 《意欲レベル》
低 ○無気力レベル・・・・ 良くなりたいと思っていない、エネルギーがない。
↓ ○逃避レベル ・・・・ にげ・ごまかし、めんどくさがり、楽して良くなりたい。
↓ ○努力レベル ・・・・(いやだけど)がんばろうとする。
↓ ○興味レベル ・・・・(好きなことは)自分から進んでやる。
高 ○自立レベル ・・・・ 自分の成長を楽しみに励む。
 一番多いのが「逃避」と「努力」を行ったり来たりしているタイプです。このタイプ以上のレベルには、W君への対応のし方がとても有効です。潜在能力が高い場合は、驚くほど伸びます。